カングラ鉄道大作戦

インドにはトイトレイン(狭軌山岳鉄道)の路線が5つある。そのうちの最も知名度の低いカングラ鉄道はダラ ムサラから簡単にアクセスできる。マイナーながらも現在世界遺産に申請中。世界遺産の価値があるのかどうか、ユネスコの職員に代わってチェックしてみることにした。

カングラ鉄道

カングラ鉄道(Kangra Valley Railway)はナローゲージ(762mm)の山岳鉄道。他のトイトレイン達と違い、観光用ではなく普通に田舎のローカル線。パンジャビ州のパタンコート(Pathankot)と、ヒマチャル州のBaijnath PaprolaまたJoginder Nagarの間を一日数本の普通列車が運行している。

端から端まで乗った場合、163キロ?, 9時間ほどかかってしまい、とても日帰りはできない。とはいえ、路線上に観光スポットなどないので、その日のうちにダラムサラに戻りたい。なんとか知恵を絞って、カングラ鉄道"日帰り"プランを考えてみたい。



旅行時期: 2009年3月後半
為替: 1ルピー = 1.88円
作成日: 2009.06.09

目次


世界遺産

  • ダージリン、ニルギリ、カルカーシムラの山岳鉄道は既に"インド山岳鉄道群"として世界遺産に登録済み。

駅一覧

Code Station Name
1 PTK Pathankot Jn.
2 DLSR Dalhousi Road
3 KAWL Kandwal
4 NUPR Nurpur Road
5 TLRA Talara
6 BLDL Balle-Da-Pir-Larath
7 BRMR Bharmar
8 JWLS Jawanwala Shahr
9 HRDR Harsar Dehri
10 MGRP Meghrajpura
11 NGRS Nagrota Suriyan
12 BRHL Baryal Himachal
13 NDBT Nandpur Bhatauli
14 GULR Guler
15 LNS Lunsu Halt
16 TRPL Tripal
17 JMKR Jawalamukhi Road
18 KPLR Koparlahar
19 KGRA Kangra
20 KGMR Kangra Mandir
21 SMLT Samloti
22 NGRT Nagrota
23 CMMG Chamunda Marg
24 PRAR Paror
25 SLHP Sulah Himachal Pradesh
26 PLMX Palampur Himachal
27 PTRJ Patti Rajpura Halt
28 PHRH Panch Rukhi
29 MNHL Majhairan Himachal
30 BJPL Baijnath Paprola
31 BJMR Baijnath Mandir
32 AHJU Ahju
33 CTZ Chauntra Bhaterh
34 JDNX Joginder Nagar

補足

Kangra Mandir駅 到着予定時刻

観光用列車

  • 以前は、Kangra Queenという観光用列車がPathankotからPalampurまで走っていたようだが、現在運行している気配はない。
  • パタンコット発の列車では、1PBJ(6:33AM通過)にファーストクラス(non-AC)が連結されているらしい。3PBJや5PBにも時折ファーストクラスが付くとの噂。逆方向は不明。予約方法も不明。おそらく出発駅で直接購入。

情報収集

カングラ鉄道の情報はあまりに少なく、路線のどの部分が景色がいいのかよくわからない。観光情報サイトには「マングワル (Mangal)からカングラまでの18マイル、特に最後の2マイルがすばらしい」とよく出てくるのだが、マングワルという駅は存在しないし、今時インド鉄道もマイル表示はしていない。どうも古い情報を 他のメディアも使いまわしているようだ。確実そうな情報としては、


  • カングラに入る前の数キロは景色がいい。
  • カングラを超えた後、列車はしばらくヒマラヤの雪山と平行に走る
  • BAIJNATHを超えると急なのぼりになる。
  • トンネルがほとんどなく、橋が1000近くある。

このくらいだけ。実際に乗ってみるしかない。


また、この時期、10AMごろから山に雲がかかり始めるので、なるべく午前中に景色のいい場所を走るスケジュールを組みたい。それより早い時間帯の場合、北側の山に十分太陽が当たっておらず雪山がきれいに見れない。

さて、出発駅はどこがいいか。カングラ鉄道へのアクセスは公共バスしかない。ダラムサラのバスターミナルからバスの本数の 多い町(駅)は、カングラ(6AM-8PM, 30分おき), パランプール(6AM -, 1時間おき)など。マクロードガンジからだと一日4本カングラへ直通バスがあるくらいだ。一番近く、情報の集めやすいカングラ駅を中心にプランを組み立てることにした。

列車選び

インド鉄道の時刻表、Trains At Glanceにカングラ鉄道の項目(T96) はあるものの、カングラ・マンディール駅の到着予定時間は書かれていない。幸い、その情報はERAILのサイトでチェックできる。このサイトはカングラ鉄道のような、指定席のないローカル列車の情報も検索できる。調べると、毎日7本の列車が走っている。

午前中に通過する列車を見ると、パタンコット方面が、6:04AM, 9:41AM,12:43AMの3本。逆方面が6:33AM,8:42AM,11:20AMの3本。マクロードガンジからカングラ駅までの移動時間(2時間)なども考慮し、次のプランを立ててみた。

  • 9:00AMマクロードガンジ発のカングラ直通バスを使い、11:20AMの3PBの列車に乗る。
  • 終点のBaijnath Paprolaまで行く。
  • 20分後の2:10PM発の始発列車に乗り、でカングラに午後4時くらいに戻ってくる。
  • その後、バスでダラムサラに戻る。

このプランでは、余裕をもって行きの列車に乗り、雪山の見える区間を進み、帰りは始発なのでいい席を確保できる。さっそく この計画を実行してみることにした。

プラン A

9AM発のバスに乗り、20km先のカングラに向かった。一時間ちょっとでカングラ・バスターミナルに到着。ここから駅までは3キロほどあるので、乗り合いオー トリキシャで駅に向かう。カングラには駅が2つあり、カングラ・マンディール駅が主要駅。他にカングラ・フォート駅が3kmほど西にある。駅のまわりには売店がたくさんあり、チャイを飲みながら遅延が当たり前の列車を待った。


写真: 左: カングラ・バスターミナル。輝く雪山。 右: カングラ・マンディール駅

11:50AM, 列車は30分ほど遅れて到着。席は確保できたが、残念ながら通路側だ。しばらく北側に雪山を見ながら進む。これらの山の一部はダラムサラからも見える。インドの鉄道といえば、乾燥した大地を豪快に走るイメージがあるが、この路線は緑あふれる田園風景の中をのんびりと走る。窓際に移ったときには、遠くの山に雲がかかり始めており、景色はいまひとつだった。それでも、のどかな風景、心地よい揺れ具合、地元の人々のかもし出すスローな雰囲気、と居心地は悪くない。思わずうたた寝してしまった。

 
写真: 左: まわりはのどかな田園風景。右: NAGROTA駅で上下線の待ち合わせ。

終点のBaijnath駅に到着。10分後には折り返しの列車に乗り、カングラ方面に戻る。しだいに曇り始め、 途中から雨が降ってきた。3月後半のダラムサラは、毎日のように午後に雨が降っていたが、平野部のここでも状況は変わらないようだ。トイトレインを楽しむというよりは、名もないローカル列車を楽しんだ。そんな4時間半の鉄道の旅だった。


写真: 雨で窓を閉めたものの、景色が良く見えないと指摘する娘。基本的に他の乗客とは会話はない。その無関心ぶりがまた心地いい。

Plan A

交通詳細

  • マクロードガンジ -> カングラ・バスターミナル: 9AM, 12AM, 1PM, 5:20PM   ?ルピー。
  • バスターミナル -> カングラ・マンディール駅: テンポ 5ルピー x 2 (Tehsil Chowkでテンポを乗り換える。)
  • カングラ駅 --> Baijnath駅: 8ルピー
  • Baijnath駅 -> カングラ駅: 8ルピー
  • カングラ駅 -> バスターミナル: テンポ 10ルピー
  • カングラ・バスターミナル -> ダラムサラ: ?ルピー
  • ダラムサラ・バスターミナル -> マクロードガンジ: 乗り合いジープ 10ルピー

サドゥー


路線には巡礼地がいくつかあるので、乗客にはサドゥーが多い。


プランB

プランAは、意外と良かったが、まだ何か物足りない。やはりガイドブックに書かれていた「 カングラ駅の手前2マイルがすばらしい」という情報が気になる。一番景色のいい区間がカングラ駅から西側の区間にあるというのなら、大事なものを見逃している。

午前中のいい時間に、カングラ駅を通るパタンコット行きの列車は9:42AMのみ。これを中心にプランBを組み立てることにした。

プランAより通過時間が早いので、直通バスは使えない。オートリキシャで山の麓のダラムサラ・バスターミナルまで行き、7AMのバスでカングラへ向かった。7:40AMに到着。早く着き過ぎたので、カングラ・フォートを見学することにする。9:00AMに駅に戻ると、ちょうどBAIJNATH PAPROLA行きの列車が20分遅れで通過したところだった。もし、これに乗っていれば上下待ち合わせのあるNAGROTA駅まで行き、パタンコット行きに乗り換え帰ってくることもできる。しかし、ここは焦らず、列車が来るまで、駅の上の丘に登って景色を楽しむことにした。今日は非常に天気がいい。


  写真: 上: カングラ・フォート 下: カングラ・マンディール駅からヒマラヤを見る

列車は25分遅れて10時過ぎに到着。中は大変混雑しており、ドア付近に立つのが精一杯。ガイドブックにあった通り、ここ から次のカングラ・フォート駅あたりまで絶景が続く。といっても雪山があるのは右手後方なので、振り返えって見なけばならない。10分後にはフォート駅に到着。やはり最後の2マイル(Last 2 miles)というのはこの区間のことを言っているようだ。 確かに、逆方向から来たら、左前方に川とヒマラヤが同時に見えていい景色だ。ただしほんの10分間だけ。さらに悪いことに、フォート駅に着くころには、雲が雪山の大部分を覆っていた。 さっきまで雲ひとつなかったのに、山の天気は30分でこうも変わるらしい。


写真:左: Kangra Mandir - Kangra Fort間。この路線のハイライト。すでに山に半分雲がかかっている。右: Fort駅に到着。

フォート駅の後、しばらく川沿いに走り、鉄橋をいくつか超える。景色に大きな特徴はない。車内はさらに混んできて、一向に 座れる気配がない。Guler駅では、発車した列車に戻ろうとするも、乗客が乗車口から溢れていて乗ることができない。最後の手段として、最後尾の女性専用車両に飛び乗った。


写真: 左: 立派な橋。 右:車内の混雑状況。トイ・トレインは座席も通路も狭い。

Guler駅を過ぎると、遠くに湖が見えてくる(左側)。Nurpur Road駅では20分ほど上下線の待ち合わせ。単線のため、待ち合わせの停車が何度もある。そういう時は一旦列車から出て休憩する。混雑の中にも秩序があり、車内に戻ると、たいていもといた場所に立たせてもらえる。


写真: 左: 立ち乗りする人々。1000の橋も恐れない。 右: 逆方向の列車。一つだけ窓の大きな車両。これがファーストクラスかもしれない。

最後のほうは、普通の農村を一時間ほど走り、結局一度も座れないまま、終点パタンコットに到着。 3:10PM、40分遅れで、トータル5時間。駅のトイレから帰ってくると、4:15PM発の列車が入線しており、すでに満席。バスもあるのに、なぜここまで混むのか全く理解できない。オフシーズンになるとガラガラのダージリン・トイトレインと違い、この路線は本当に地元の人達の役に立っているのだろう。この後、バスで3時間半かけてダラムサラに戻り、プランBを完了した。


   写真: パタンコット駅。終点。

Plan B

交通詳細

  • マクロードガンジ -> ダラムサラ・バスターミナル: オートリキシャ120ルピー。運良く乗り合いジープがいれば10ルピーから。
  • ダラムサラ -> カングラ: バス。30分に一本、45分。15ルピー?
  • カングラバスターミナル -> カングラ・フォート -> カングラ・マンディール駅: オートリキシャをハイヤー: 200ルピー
  • カングラ -> パタンコット: 列車 17ルピー, 5時間。
  • パタンコット駅 -> バスターミナル: サイクルリキシャ 10ルピー
  • パタンコット -> ダラムサラ・バスターミナル:  80ルピー, 3.5時間。1時間に一本程度
  • ダラムサラ -> マクロードガンジ: タクシー 150ルピー??
 

カングラ・フォート

  • カングラにある城塞跡。カングラ鉄道からも見える。同名のカングラ・フォート駅は川を超えた丘の上にある。歩くと多 分結構時間がかかりそう。
  • 入場料: 100RP

無骨なイエローキャブ?


  パタンコート・バスターミナルにたむろするチョコボールのマスコットのような乗り物。どうやってオートリキシャと差別化し ているのだろうか。


手作り感あふれるシンプルなダッシュボード。

マナリーへのバス

 カングラ鉄道を一通り体験した私は、次の目的地マナリーへ向かった。朝6:10発のバスは11時間かけてマナリーまで行くものの、その設備や運用はローカルバスそのものだった。大きめのバスターミナルでは10分以上止まり、車掌が次の大きな町の名前を連呼する。このバスは、マクロードガンジから、 ダラムサラ、 カングラ(7:20)、NAGROTA(7:55)、PAROR(8:20), PALAMPUR(8:37), BAIJNATH(9:40), AHJU(10:15)、JOGINDER NAGAR(10:40)を経て、東へ進む。見事にカングラ鉄道に沿って走るのだ。カングラの先は、いずれも小さな町なので、駅とバス停はそんなに離れていない。バスでこれらの駅まで行き、そこから鉄道に乗るという選択肢もありそうだ。


バスの走る道路は、線路よりすこし北側で、雪山に近く迫力がある。景色に関して言えば、鉄道に固執する必要はなかったの だ。もちろん列車のほうが揺れが少なく写真も撮りやすい。しかし、始発のバスなら、好きな席に確実に座れる。 マナリーへ続くクルーバレーの雪山の眺めは、カングラ地区以上にすばらしく、ここ 数日の景色へのこだわりは、あまり意味がなかったことに気づくのだった。

写真: BAIJNATHバスターミナル

補足

  • マクロードガンジ -> マナリー バス: 6:10AM, 6:30AM。11時間、240ルピー。席は左側がいい。
  • BAIJNATHから10:45発の2PBJに乗ってパタンコートまで行くという選択肢もある。ここでも座れる保証はない


プランC

ここまで経験してきて、やっと全体像が見えてきた。カングラ鉄道で見逃せないのは次の2区間。

  • Kangra Fort駅からKangra Mandirの3キロ程度の区間。眼下に川、斜め前に雪山。[席: 北側(左側)]
  • Kangra FortからBAIJNATH(または、PALAMPU)あたりまでの雪山の景色。[席:北側(左側)]

ということで、より洗練されたプランとしては、

  • 1PB(パタンコット発、BAIJNATH行き)の列車が8:42AMにカングラ・マンディール駅を通過する。 たいてい30分くらい遅れるので、一番天気のいい9時台に雪山が見える区間を通過る。これに乗る。
  • フォートとマンディールの区間も乗りたいので、フォート駅か、それより前の駅で乗車する。どの駅にどうやって行 くかは未調査。たぶんカングラからのバスになるはず。
  • カングラ・マンディール駅では、たくさんの人が降りるので、そこですばやく左の窓際を確保する。
  • 2時間後、10:40AMにBAIJNATH駅に到着。待っていた2PBJが数分後に発車するので、それに乗り かえてカングラまで帰ってくる。遅れがなければ、12:43分にカングラに到着する。列車の代わりにバスで帰ってもいい。
  • その後、カングラ・フォートでも見学して、バスでダラムサラに帰る。

これが今の知識で考えられるベストのプランだ。


最後に

さて、苦労して編み出したプランCがうまくいくかどうか、試してないのでわからない。運悪く座れないかもしれない。他のトイトレインと違い、カングラ鉄道は不確実性が高く、よそ者には敷居の高い。ここまで苦労して乗る価値があるのかといえば、答えはもちろんノーだ。 こんなツーリスト無視の素っ気ない世界遺産がひとつくらいあってもいいのかもしれない。

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