パスーの吊橋
パスーとフサニの吊橋は、"危険"な橋として、観光スポットになっている。見た目だけでなく、実際にも危険なのだが、現地の人は特に修復することなく使っている。観光客はスリリングな体験を求めてわざわざ"渡り"にやってくる。私もそのうちのひとりである。
川原を歩いて吊橋へ向かう。右側の崖に橋の入口へ続く道があるのだが、それを無視して橋の下まで歩く。乾季の10月は、水は川の一部しか流れていないので、橋の真下まで来れるのだ。もう一つ注目なのは、橋が低いこと。一番低いところでは、高さが2m20cm くらいしかない。
なぜか、その一番低い場所から、布がぶら下がっていた。「....これは私によじ登れというメッセージなのか」そう解釈した私は、ジャンプして両手で布に捕まった。すると布はあっさり二つに切れ、川原に落ちた。これは、地元民がよじ登るために用意したものではないようだ。
こうなれば自力で登るしかない。まずは真ん中の二本のワイヤーを掴み、両足を添え木に乗せる。片手を一番外側のワイヤーに持ち替え、足を一本つづ内側のワイヤーの上に乗せる。最後にワイヤーの間から上半身を出し、立ち上がる。これが作戦だ。後は実践あるのみ。
ジャンプしてワイヤーを掴み、ぶら下がる。次のステップのタイミングを計っていると、遠くのほうから「ぅおえーっ」と声が聞こえた。私を注意しているのだろうか、他の誰かを呼んでいるのだろうか。多分後者のはずだが、地面に下りて少し考えてみた。もし、途中で失敗して落下した場合、最悪2m腰から落下することになる。もう夕方近いので、そのまま翌朝まで放置されるかもしれない。それ以上に気になるのは、登る過程で、ズボンにワイヤーの錆が付くことだ。この女々しい理由からよじ登りを断念することにした。
今日は何やってもうまくいかない。このままでは、今日一日ヘタレで終わってしまう。「よじ登りがダメなら飛び降りはどうだろう」そう考えた私は、橋の入口の真下にある岩を這い上がり、吊橋を歩き始めた。フサニの吊橋と違い、両端の手すりワイヤーの距離が広く、両手でしっかり握れない。歩き進むにつれ、手すりの位置が下がり、楽に握れるようになる。中間地点、幅5mほどの浅い川を越えた辺りが橋が一番低い場所だ。下を見ると、私が破いた布が落ちている。
ちょうどこの位置には、補助ワイヤーが斜めに繋がっており、これをうまく利用できそうだ。両手で手すりワイヤーを掴み、片足を外側のワイヤーに、もう片方の足を補助ワイヤーに乗せる。補助ワイヤーを伝って少しずつ足を下ろしていき、タイミングがいい所で、足元のワイヤーを手で掴み、ぶら下がり、そして飛び降りた。すべてうまくいった。しかし、何の意味があったのだろうか。
写真: 上: 川原から見上げた吊橋。下: 飛び降りた場所。補助ワイヤー(写真では一番下)が岸からここまで斜めに接続されている。足元のワイヤーは中心部に二本。外側に一本ずつ。手すりワイヤーはお腹ぐらいの高さに一本あるだけで、間から簡単に抜けて飛び降りることができる。 |