二本目: 最短コース
5分ほど登ると、「今度は間違いない」と思える道が、斜め右に伸びている。道沿いに草が生えており、斜面の真ん中を流れる小川までのルートがはっきり見て取れる。これが「やや危険なコース」だろう。実際に歩いてみると、道はしっかりしており楽に歩ける。小川を横切る場所には、石の橋が積んであるので、全く問題なし。しかし、楽勝だと思えたのはここまでで、小川の先、どんどん道が険しくなっていく。「こりゃ、下りは怖くて無理だな」と思える狭い崖沿いの道などもあったが、とにかく先を急いだ。
途中、石を積み上げた階段のようなものがある。そこを登りきると、地面が石っぽい岩の斜面になり、道がはっきりしなくなる。左前方に大きな岩が鎮座しており、その上にケルン(石を積み上げた標識)らしきものがある。ケルンの方向に向かって歩きたいところだが、滑りやすそうな岩があるだけで、安全な道はない。何度か横断を試みるも、怖くて先に進めない。結局、これ以上登るのを断念して下り始めるが、帰りの道がさらに怖くて身動きが取れない。帰りは「安全なコース」を歩くつもりだったので、来た道を戻ることは全く考えていなかった。もちろん、登りの途中で道がわからなくなることも想定外だ。
写真: 青い線がルート。黄色い丸 - 下: 小川を越える場所。右:ケルンのある岩。左:頂上付近の柳の木。
一歩踏み出す勇気
近くの岩の斜面に恐る恐る腰掛け、わざわざ危険なルートを選んだ自分に少しだけ後悔した。大声で助けを呼べば、下の果樹園の誰か気付いてくれるだろうか。まだ朝早いのでチャンスは十分ある。岩の上の砂利は滑りやすく、無理に下ろうとして転落する可能性もなくなない。いずれにせよ明日の朝刊に「非常識な日本人トレッカー」として載ることになるだろう。もう山登りはこれが最後か...と対岸の景色を眺めていると、なぜか急に勇気が湧いてきた。
ケルンのある方向は危ないが、その逆の方向、右上の岩は、多少はましなレベル。這いつくばって登り切ると、上が幾分平らになっており、ケルンのある岩まで歩いて渡れた。振り返って見ると、最初の場所からケルンまでは一応崖沿いに道があり、手前の岩が邪魔で、死角になっていただけだった。ただ、その道も急斜面上の危なっかしい場所で、私の選択したルートのほうが安全に感じた。
ここまで来ると、ゴールはすぐそこ。左手に伸びる道を進み、水路に到着。上を見上げると、すぐそばの丘の上に、ビクトリア・モニュメントがウルタルをバックに立っている。残念ながら牛はいない。危険を回避した安堵感もあり、速足で上まで駆け上がった。
タイムは計っていないが、目安としては、スタート地点 - (5分) - 分岐 - (20分) - 大岩 - (5分) - 頂上の計、30分。 この心臓によくないルートを「最短、ただし寿命が縮まりますコース」と呼ぶことにしたい。
写真: 上: 最後の難関。真ん中の低い石の上に、ケルンが置いてある。岩の下を通る道(青い線)に気付かず、岩の上の道から回ってきた。 下: その難関から2,3分歩けば、ビクトリア・モニュメントが視界に入ってくる。あきらめなくて良かった。
|