フンザの裏山 ビクト山を攻略

バルテイット・フォートの裏にそびえる急勾配の岩山。その頂上にビクトリア・モニュメントと呼ばれる石の建造物があり、実はそこまで登れるという。”登れる”のなら、登るしかないでしょ。ということで、フンザの裏山の攻略に出かけた。便宜上、この岩山をビクト山と呼ぶことにする。




旅行時期: 2009年10月中旬
為替: 1ルピー = 1.08円
作成日: 2010.02.10

目次

 

ルート情報

ビクト山へのウォーキングはあまりメジャーでないらしく、どのガイドブックにも載っていない(と思い込んでいた)。過去の情報ノートを読み進めると、2つだけ書き込みがあった。一つは、10年以上前の日本語の書き込みで、斜面を横切り、滝のような小川を越え、かなり急な登りを経て山頂へ到達するルート。頂上には柳の木と牛が三頭いるらしい。もう一つは英語のシンプルな書き込みで、遠回りだが石の道を歩いて、小川を横切ることなく頂上に到達する"Easy and Safe"なルート。つまりルートは2つあり、やや危険なコース安全なコース。共に簡単な図が書いてあったので、大雑把ではあるがルートのイメージが掴めた。細かいことは現地で確認することにして、ビクト山に向かった。

ビクト山の下には水路が平行に流れており、ウルタルB.C.へのトレッキングする時は、上から二本目の水路で右折してウルタル方面に向かう。ビクト山に登る場合は、そのまま一番上の水路まで行けばいい。ここが事実上のスタート・ポイントだ。

 

補足

  • ゼロポイントから一本目水路まで: ウルタルトレッキングのページ(製作中)を参照

一本目: フライング・コース

早速登り始める。ビクト山はスタート地点から見て斜め右にある。 その左側に土砂崩れのような砂利の流れがあり、そのさらに左側に、石、岩、土が重なり昔は川だったような感じのエリアが広がっている。その中に、土がまわりより2,3メートル盛り上がった丘のような部分があり、その丘に沿って、山の上の方まで歩くことができる。

丘の上を歩き始めると、すぐに右側に斜めに伸びるトレイルを発見。一見、岩の上を歩く険しい道のようだが、足跡もあり、道は続いている。この道をがんばって歩いていると、下の水路にいたオジサンからストップがかかった。この道から山頂に登るのは無理らしい。確かに、ここから山頂までまだかなりの高さがある。途中で道が途絶えるかもしれない。

このルートを諦め、丘の上の道まで戻る。どうも、正しいルートはもっと上にあるようだ。この紛らわしいルートを"フライング・コース"と呼ぶことにする。

写真: 青い線がフライングコース。黄色い丸 - 小川。その先に道があるか不明。

補足

  • スタート地点のすぐ右側にあるので、まぎらわしい。次に紹介する最短コースも同じように、岩の斜面を川の辺りまで斜めに登る。違いは、このコースの場合、小屋のようなものが、川の向こう側にある。最短コースの場合、大きな石のようなものが川の手前側にある。

二本目: 最短コース

5分ほど登ると、「今度は間違いない」と思える道が、斜め右に伸びている。道沿いに草が生えており、斜面の真ん中を流れる小川までのルートがはっきり見て取れる。これが「やや危険なコース」だろう。実際に歩いてみると、道はしっかりしており楽に歩ける。小川を横切る場所には、石の橋が積んであるので、全く問題なし。しかし、楽勝だと思えたのはここまでで、小川の先、どんどん道が険しくなっていく。「こりゃ、下りは怖くて無理だな」と思える狭い崖沿いの道などもあったが、とにかく先を急いだ。

途中、石を積み上げた階段のようなものがある。そこを登りきると、地面が石っぽい岩の斜面になり、道がはっきりしなくなる。左前方に大きな岩が鎮座しており、その上にケルン(石を積み上げた標識)らしきものがある。ケルンの方向に向かって歩きたいところだが、滑りやすそうな岩があるだけで、安全な道はない。何度か横断を試みるも、怖くて先に進めない。結局、これ以上登るのを断念して下り始めるが、帰りの道がさらに怖くて身動きが取れない。帰りは「安全なコース」を歩くつもりだったので、来た道を戻ることは全く考えていなかった。もちろん、登りの途中で道がわからなくなることも想定外だ。

写真: 青い線がルート。黄色い丸 - 下: 小川を越える場所。右:ケルンのある岩。左:頂上付近の柳の木。

一歩踏み出す勇気

近くの岩の斜面に恐る恐る腰掛け、わざわざ危険なルートを選んだ自分に少しだけ後悔した。大声で助けを呼べば、下の果樹園の誰か気付いてくれるだろうか。まだ朝早いのでチャンスは十分ある。岩の上の砂利は滑りやすく、無理に下ろうとして転落する可能性もなくなない。いずれにせよ明日の朝刊に「非常識な日本人トレッカー」として載ることになるだろう。もう山登りはこれが最後か...と対岸の景色を眺めていると、なぜか急に勇気が湧いてきた。

ケルンのある方向は危ないが、その逆の方向、右上の岩は、多少はましなレベル。這いつくばって登り切ると、上が幾分平らになっており、ケルンのある岩まで歩いて渡れた。振り返って見ると、最初の場所からケルンまでは一応崖沿いに道があり、手前の岩が邪魔で、死角になっていただけだった。ただ、その道も急斜面上の危なっかしい場所で、私の選択したルートのほうが安全に感じた。

ここまで来ると、ゴールはすぐそこ。左手に伸びる道を進み、水路に到着。上を見上げると、すぐそばの丘の上に、ビクトリア・モニュメントがウルタルをバックに立っている。残念ながら牛はいない。危険を回避した安堵感もあり、速足で上まで駆け上がった。

タイムは計っていないが、目安としては、スタート地点 - (5分) - 分岐 - (20分) - 大岩 - (5分) - 頂上の計、30分。 この心臓によくないルートを「最短、ただし寿命が縮まりますコース」と呼ぶことにしたい。

写真: 上: 最後の難関。真ん中の低い石の上に、ケルンが置いてある。岩の下を通る道(青い線)に気付かず、岩の上の道から回ってきた。 下: その難関から2,3分歩けば、ビクトリア・モニュメントが視界に入ってくる。あきらめなくて良かった。

ルート詳細

  • スタート地点を右に行くと、小丘の道があるので登っていく。しばらくすると、右側に斜面を横切って登る道が見えてくるので、その道を進む。
  • 途中にケルンがあり。小川までは歩きやすい道。石の橋を渡る。
  • その先、道が狭くなったりして、危険度が少し増す。最後、石を積んだ階段を登ると、左側に大きな岩とケルンがある。死角で見えないが、左側の石の先に道があり、そのまま進める。または、上にある石(岩)の斜面を少し登り、ケルンのある方向に進む。
  • ケルンの背後から、頂上に続く道が延びている。石垣を越えて水路を横切れば、目の前にビクトリア・モニュメントがある。

ビクトリア・モニュメント

ビクトリア・モニュメントが建設された経緯は知らないが、あまり重要なものでないことは確かだ。一見、小屋のように見えるが、入り口はなく、中へは入れない。何一つ実用性のない、石と泥で作った建物だ。

やはりここでは景色を楽しみたい。まず、高い場所にあるため、南側のディランやラカポシ、その間の山がつながって見える。カリマバードのすぐ裏なので、町全体、特にジャパンチョーク辺りを上から見下ろすことができる。北側には、ウルタルが迫っている。登ってきた方向を少し戻ると、手前に丘があり、そこからアルテイットの村が望める。一番高い場所にいる、というだけで爽快感を感じる。さっきまで生死の心配をしていたことはすっかり忘れていた。

写真: ビクトリアモニュメントの少し上からの風景。正面にディランとラカポシ

補足

  • もちろん、ビクトリア女王への記念碑である。
  • モニュメントの先にさらに高い場所があるが、特に何かあるわけではない。
  • 昔は、牛が三頭いたらしい。
  • なぜか水路脇に柳の木が一本ある。遠くから見てモニュメントが見えない場合でもこの木を目印にすることができる。

三本目: 臆病者コース

さて、「やや危険なコース」は、「かなり危険」だとわかったので、帰りは「簡単で安全」なコースを歩いて下りたい。モニュメントのすぐ下に水路があり、ウルタルの氷河の雪解け水の一部がここまで流れてきている。その水は、滝のような小川を通って下に落ち、ビクト山下の水路に流れ込んでいる。この水路は、もともと平行にも流れていたので、現在使われていない部分は、歩道として普通に歩くことができる。

この乾いた水路に沿って10分弱歩き続けると、スタート地点から続いている小丘に行き当たる。この丘に沿って下っていくとスタート地点に到着する。この小丘のルートはスタート地点からみて、斜め左方向、つまりビクト山とは逆方向に伸びているため、けっこう遠回りをしている。ただし、危険な場所は一つも無く、ひたすら歩くだけでいい。目安のタイムは、スタート地点 - (30分) - 水路の歩道 - (10分) - 頂上の計、40分。危険をさけて無駄に歩くこのルートを「臆病者は歩けコース」と呼ぶことにしよう。


写真: 途中にある石の休憩スポットからの眺め。

補足

  • 現地の人達は、このコースを通って山の上の方の草を取りに行く。道はしっかりしているし、足跡もある。牛もこのコースを通って頂上に行ったと思われる。
  • この道を上まで登って、左に曲がり、ホン・パスに行く現地の人を見かけた。ホン・パスへはウルタルB.C.経由でなくても行けるようだ。

コース詳細

  • スタート地点を右に行くと、小丘の道があるので登っていく。途中、大きな平らな石があり、いい小休憩ポイント。
  • さらに登ると、石垣の囲いのようなものがある。後半、道はビクト山方面から少し離れた方向に進む。
  • 上まで歩くと、水のない水路沿いの道に到着する。ここから右に向かって歩くだけ。10分ほどで、ビクトリア・モニュメントに到着する。
  • 石垣の囲いのあたりから、真上に近道が延びているが、砂の道なので歩きにくい。主に下り用。

 

四本目: いいとこ取りコース

臆病者コースを下っている時、新たなコースを発見した。下りの途中に、2m四方の石の囲いのようなものがある。そこから30mほど下に、ビクト山の黒い岩に向かって、うっすらと斜めに延びている道がある。この道を進むと、砂利のエリアを少し登り、岩のそばを通った後、斜めに流れる小川沿いに歩く。滝のような本流の小川に合流すると、すぐ上に水路とビクトリア・モニュメントがある。このコースは、「最短コース」と「臆病者コース」の間の場所から、ビクト山の方向に登り始める。山登りを全くしたことが無い人から見れば危険な場所もあるが、「最短コース」と比べたらかなり安全といえる。距離も難易度も前出の2コースの中間。オススメの「いいとこ取りコース」である。ただ、道の跡が薄く、分岐点がみつけにくい。目安の時間は、スタート地点 - (15分) - 分岐 - (15分) - 頂上の計、30分

写真: 青い線 - ルート。黄色い丸 - 頂上近くの柳の木。

補足

  • 後から確認すると、情報ノートの"safe and easy"コースは、この「いいとこ取りコース」を指しているようだ。

コース詳細

  • スタート地点を右に行くと、小丘の道があるので登っていく。途中、大きな平らな石があり、いい小休憩ポイント。
  • 右上にうっすら斜めに延びる道があり、黒い岩の下の道につながっている。この道は砂や砂利の上を横断するので、滑りやすいが、距離も短く、危険は無い。
  • 岩のあたりから、傾斜がなだらかになる。途中、斜めに流れる小川があり、小川沿いか、少し上にある道を進む。いずれにせよ、小川に沿ってって登る。
  • そのまま歩くと、水路が斜面の小川(本流)に流れ込む場所に到着する。ビクトリア・モニュメントはここから見えており、1,2分歩くだけ。

コースまとめ

基本データ

コース名 所要時間 難易度
フライング・コース N/A N/A
最短コース 30分 後半高
臆病者コース 40分
いいとこ取りコース 30分 普通

所要時間は登りの目安。いいとこ取りコース以外は時間を計っていないので、多少不正確。

ゼロポイントからスタート地点までは、50分くらい。

ルート


ルート: 赤 - 最短コース。紫 - いいとこ取りコース。青 - 臆病者コース。細い線は下りの近道。 水色 - 滝のような小川。頂上の2つの黒い四角は、左がビクトリア・モニュメント、右が柳の木。 こう見てみると、実際には最短コースよりいいとこ取りコースのほうが距離が短い。

サイドトリップ

ビクト山だけでは歩き足りない人は、帰り、フォートとの分岐点まで戻らず、カリマバードの奥のほうにサイドトリップができる。

 

ジャパンチョーク方面

  • フォートに戻る途中、川沿いの道から外れて平らな道になる場所がある。右手側に、民家の間を抜けて下の方に降りる石段がある。この道の両側には、古い民家とリンゴ畑があり、雰囲気がいい。しばらく歩くと、ジープ道に出る。その先に同じような道があるので、道路を渡り、さらに下る。再びジープ道に出るので、そのまま道沿いに進めば、ジャパンチョークの交差点に出る。すぐそばの脇道をまっすぐ進むと、ジャマット・カーナを経てハセガワ・メモリアル・スクールへ直接行ける。ジャパンチョークは、山の上のほうの集落とバザール通りを結ぶ交通の要所で、周りに店も多い。薬屋や、チキンスープ(5ルピー)の飲める食堂(ELMA Cafe)、リンゴ1kg15ルピーの果物屋などがある。

 

一番奥の集落

  • スタート地点の一つ下の水路から、少し下ったところに、車も通れそうな広い道がある。そこを右手側に進むと、カリマバードの端の集落(一部アミナバード)まで道がつながっている。このあたりまで来ると、ラカポシが大きく見える。最後はハイデラバード川に行き着くので、少し戻って,下の方に降りる道を進む。ジープ道の道はジャパンチョークに繋がり、舗装道路はバザール通りにつながっているはず。そうでない場合は、地元の人に聞く。この道は、チャンネル・ウォークの道より一段高い所を歩く。ツーリストがあまり立ち寄らないエリア。

 

最後に

ここまで調査した後、何気なくロンプラを開いてみると、ビクトリア・モニュメントについてちゃんと書かれていた。なぜか読み飛ばしていたのだ。ただ、詳しいルート説明はなく、「斜めの道はやめとけ。水路の水が流れ落ちてるからね」とだけ書かれている。実質、臆病者コースを勧めていることになる。これを先に読んでいたら、何の発見もなくトレッキングを終えていたかもしれない。もちろん、既知の情報を後追いするより、未知の情報を探求するほうが断然面白い。

ビクト山のいいところは、カリマバードに近いので気が向いた時、いつでも登れること。私の場合、ゼロ・ポイントの宿から山頂まで50分くらいで登ってしまう。また、帰り道も、ジャパンチョーク方面へ寄ったりと自由度が高い。にもかかわらず、ツーリストが登っているのを見たことが無い。出会うのは、臆病者コースを上に向かう現地の人だけだ。この愛すべきフンザの裏山がいつかメジャーになる日を願って、「天気のいい朝はビクト山に登れ」、と頂上から叫んでみた。もちろん心の中で。

写真: ビクト山に向かう途中の家の少女。「マリカムシカリ(モニュメントの現地名)にはね、牛がいるのよ」と言っていたのだが...

 

 
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