初めての仏歯
午後5時。なんとか最後のセキュリティを超え、お寺の敷地内へ。ここから本堂へも行列は続く。後ろからの圧力も強さを増し、何度か軽いドミノ倒しにあいながら先へ進む。突然のスコール。どさくさに紛れて行列を飛ばす人、自らもびしょ濡れになりながら本堂前で人の流れを制止する警官。阿鼻叫喚の最後の攻防が繰り広げられる。
午後5時半。やっと中に入ることが出来た。2階に上がると、仏歯は大きなガラスケースの中、ダイヤモンドでも展示するかのように飾られていた。強いライトを浴び、ケースの両側では若い坊さんがニコニコしながら仏歯を指差している。夢でも見ているかのような異様な空間がそこに広がっていた。9時間並んで無駄ではなかった。
では肝心の仏歯はどうだったかというと、一本の大きな真っ白な歯。なにか象牙のお土産のような、動物の歯のような、「え、人間の歯ってこんなんだったっけ」というのが正直な感想。円錐の先を丸くしたようなきれいな形。ニセモノ? テロ対策? その時は、本物かどうかより、「実際に見れた」ことのほうが重要だったのであまり気にしなかった。
満足して本堂から出ると、後ろにいたはずの行列がない。私の後100人程度で切られたようだ。警備の警官が何事もなかったかのように帰宅していく。帰り際、もうひとつの心配事が頭をよぎる。あの預けた荷物だ。あのおじさんちゃんと荷物を見張っているのだろうか、シートを被せて荷物を雨から守ってくれたのだろうか。
その結果はすがすがしいほど単純だった。あそこにいたおじさん達は見当たらず、荷物は通路にそのまま
雨晒しになっていた。どの荷物も泥だらけで、ゴミの山にしか見えない。おじさんの顔は覚えていても、どこで手渡したかはっきり覚えていない。だめもとで、端から順番に探した結果、幸運にも荷物を見つけることが出来た。結局あの人たちは、料金も取らず、ただボランティアで荷物を路上に置いてくれていただけなのだ。こんな状況でも盗まれない荷物。スリランカの治安のよさが改めて証明された。
写真: 上: 定時に帰る警官達。 下: 雨ざらしになった荷物。
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