仏歯寺、仏歯ご開帳を真正面から攻略

ブッダの歯が祭られているキャンディの仏歯寺。普段、仏歯そのものが公開されることはない。タミルタイガーとの内戦にめどが立ったのか、政府は5年ぶりの一般公開を決定した。ぜひ見に行かなければ。

写真: キャンディ湖と仏歯寺。右下は警備艇。

目次: Top | 地域別 | ジャンル別
地域: スリランカ
ジャンル: 行事お寺

旅行時期: 2009年3月前半
為替: 1ルピー = 0.86円
作成日: 2009.06.09

目次


仏歯寺


明日公開!

実は、このイベントについて知ったのは公開前日の夜。たまたま立ち寄ったキャンディはいつもと様子が違っていた。寺の敷地内は派手に電飾され、キャンディ湖の遊歩道にはなぜか屋根が設置されていた。トゥクトゥクから明日のイベントのことを始めて聞かされた。「入場無料だけどすっごい混雑する。朝5時から並ぶといい」 と言う。もっと確実な情報が欲しかったがネットカフェはすでに閉まっている。インドへの帰国が迫っていたので明日に賭けるしかなかった。

ホテルの人は、「外国人は12時前に行けばいいはず」と自信なさげに言う。とりあえず行列を見てみたかったので朝7時ごろ仏歯寺に向かった。すでに500メートル程列が出来ていて寺のすぐ隣の湖を囲んでいる。入場開始の1時までまだ6時間もある。寺の入り口で外国人の入場方法について探ろうとしたのだが、そこでタチの悪い自称ガイドに出会ってしまった。「わしが特別な短い列に入れるようアレンジしてやろう、ついてこい」ガイド料込みで1000ルピーだという。彼の不遜な態度に腹が立った私は勢いでローカルの行列に並ぶことにした。これがすべての困難の始まりだった。

写真: 左: 行列先頭付近の徹夜組?のおばあさん達。

ローカル・キュー

午前8時。ローカル向けの行列は気が遠くなるほど長い。その一方で主催者側の準備は万端だ。湖を囲む遊歩道には臨時に屋根が設けられ、道路脇には仮設トイレと給水タンクが設置されている。警官やボランティア(Y.M.B.Aやガールスカウト)だけでなく、ジュースを配る協賛企業、便乗の物売りなど外野も賑やかだ。最初はみんなシーツを通路にひいて座っていたが、なぜか時々列が移動するので結局立って並ぶことになる。幸い湖の南側には狭いながらも土手がある。私を含めたグータラ組は土手の斜面にシーツをひいて座り、通路の列が移動した分だけ、自分達も土手を移動していった。土手組(または内側組)にはひとつ大きな問題があり、道路側のトイレや給水タングが利用できない。キツキツに人で埋まった通路を横切るのはまず不可能。 特に、同行者のいない私の場合、同じ場所に戻ってこれる保証もない。結局トイレは最後まで我慢した。

写真: 長い行列の最後尾についた。

行列の外側


給水タンク

無料ジュースをバケツリレー。


トイレは行きたくても行けない。


キャンディ湖には大トカゲもいる

入場開始

今日は平日の金曜日。若い人はあまりおらず、小さな子供を連れた家族連れかお年寄りが多い。白い服でで正装してきている人が大半。もちろん昼飯持参だ。外国人の姿は見当たらない。スリランカでは街でよく話しかけられるが、ここにいる人達はみんな私に無関心だ。本当にこの行列に並んでいていいのだろうか。少し心配になってきたころ、一人の男性が声をかけてくれた。「外国人は特別扱いで別の列があるはず。 チェックしたほうがいいよ」。うーん、もっと早く言ってくれ。もう3時間も並んでいる。今抜けて同じ場所に帰ってこられる保障はない。思考停止状態の私はこのままローカルの列と心中することに決めた。

しばらく土手組で頑張っていたものの、列が湖の西側に近づくにつれて土手がなくなり、私も”立ちっぱなし組” に。1時を過ぎて入場開始。列の進み具合が早くなってきた。途中、通路が急に狭くなり、混雑度が最大限に達したところで、やっと湖の西側に到着。この列をまっすぐ進んだ所に最初のセキュリティ・チェックがある。


写真: 左: 土手スペースが途切れて正規の行列に戻る。右: 湖の西側の行列。ボート乗り場が見える。

セキュリティ突破


満員電車以上の混雑はさらに続く。だだ立っているだけ。とても本など読める状態ではない。列の内側組の暇つぶしといえば、池のコイに餌をやることくらい。列が進むにつれ、みんなの動きが慌しくなってきた。どうもこの先のセキュリティ・チェックでは、バックや靴が持ち込めないらしい。

道路側の歩道には荷物係のような人が数人並んでいて、みんな荷物をポンポン手渡していく。渡された荷物はただ通路に積み上げられていくだけなのだが、大丈夫なのだろうか。私はデイバッグに靴を入れ、財布とカメラを残して、一番特徴のある顔をしたおじさんに預けた。カメラはやはりセキュリティ・チェックに引っかかり、指示に従い行列脇のジューススタンドに預けた。この時点で午後4時。ここまでで8時間並んだことになる。8時間と聞くと大変そうだが、周りから押されているので、自力で立っているほど疲労感はない。

写真: 上: 荷物係(青色のベスト)のオジサンに荷物を渡す。 下: 2つの行列が交わる階段。

本来ならここが行列の先頭のはずなのだが、すでに入場開始しているため、列はここからさらに湖の東側に続く。200メートルほど行った先にお寺の入口があり、その手前に2つ目のセキュリティ・チェックがある。実は行列は2つあり、お寺から芸術協会方向へ延びる方向にも列がある。2つめのセキュリティの直前の階段で合流するのだ。初めからうすうす感づいてはいたものの、実際あちらの列のほうが人数も少なく、流れも速い。私の列はというとまだ200メートルほど後ろに並んでいる。今日全員見られるのかどうか他人事ながら心配だ。

最後のセキュリティまでの道、なかなか列が進まない。流れを整理する警官に罵声を浴びせる人、私の背中をコツいて、もっと速く進め、と怒り出すお婆さん、1秒でも早く中へ入ろうと殺気立ってきた。最後には警官の制止を振り切って、セキュリティへ続く階段に突入する人も出てきた。私も便乗して後に続いた。

補足

  • 普段はカメラの持ち込みはOK。

初めての仏歯

午後5時。なんとか最後のセキュリティを超え、お寺の敷地内へ。ここから本堂へも行列は続く。後ろからの圧力も強さを増し、何度か軽いドミノ倒しにあいながら先へ進む。突然のスコール。どさくさに紛れて行列を飛ばす人、自らもびしょ濡れになりながら本堂前で人の流れを制止する警官。阿鼻叫喚の最後の攻防が繰り広げられる。

午後5時半。やっと中に入ることが出来た。2階に上がると、仏歯は大きなガラスケースの中、ダイヤモンドでも展示するかのように飾られていた。強いライトを浴び、ケースの両側では若い坊さんがニコニコしながら仏歯を指差している。夢でも見ているかのような異様な空間がそこに広がっていた。9時間並んで無駄ではなかった。

では肝心の仏歯はどうだったかというと、一本の大きな真っ白な歯。なにか象牙のお土産のような、動物の歯のような、「え、人間の歯ってこんなんだったっけ」というのが正直な感想。円錐の先を丸くしたようなきれいな形。ニセモノ? テロ対策? その時は、本物かどうかより、「実際に見れた」ことのほうが重要だったのであまり気にしなかった。

満足して本堂から出ると、後ろにいたはずの行列がない。私の後100人程度で切られたようだ。警備の警官が何事もなかったかのように帰宅していく。帰り際、もうひとつの心配事が頭をよぎる。あの預けた荷物だ。あのおじさんちゃんと荷物を見張っているのだろうか、シートを被せて荷物を雨から守ってくれたのだろうか。

その結果はすがすがしいほど単純だった。あそこにいたおじさん達は見当たらず、荷物は通路にそのまま 雨晒しになっていた。どの荷物も泥だらけで、ゴミの山にしか見えない。おじさんの顔は覚えていても、どこで手渡したかはっきり覚えていない。だめもとで、端から順番に探した結果、幸運にも荷物を見つけることが出来た。結局あの人たちは、料金も取らず、ただボランティアで荷物を路上に置いてくれていただけなのだ。こんな状況でも盗まれない荷物。スリランカの治安のよさが改めて証明された。

写真: 上: 定時に帰る警官達。 下: 雨ざらしになった荷物。

外人枠の謎


ひと仕事終え、お寺の外のベンチで休んでいると、日本語を話すスリランカ人夫婦が話しかけてきた。彼らによると、仏歯の公開は6日から16日まで11日間、毎日1時から5時までらしい。てっきり今日だけだと思い込んでいた私は、わざわざ元旦0時に初詣に行くような愚行を犯してしまった。5時で閉門してしまうのなら、今日の人々の焦りっぷりも理解できる。今日朝9時から並んだのに入場できなかった人は相当くやしい思いをしただろう。

別の情報では、12時から1時までは僧侶や外国来賓の入場タイムらしい。おそらく、外国人観光客も外国来賓に混ぜてもらえるのだろう。実際、街で外国人観光客を何人か見かけたが、声をかけそびれてしまった。

その辺り気になったので、翌朝、チケット売り場に行って確認してみた。仏歯公開中も、午前中に限り、普通に入場料を払って中に入れるのだ。 ただし仏歯は見られない。近くの警備員によると、「外人は12時にここに並べばいい」。チケット売り場の男性によると、「外人もローカルも同じ列に並べ」と言う。少し問い詰めると「じゃあ11:30頃来てみれば」と、ここでもはっきりした情報を得られない。実際、その日の昼に行けば外人枠があるかどうかすべての謎が解ける。しかし、先を急いでいた私は悔いを残しつつ、コロンボへ向かうことにした。

写真: なぜかピザハット前で待ち合わせる参拝客。

二日目の朝

バス停に向かう途中、今日の行列具合をチェックしてみる。すでに昨日と変わらない長い行列ができていた。土日なのでさらに混むのかも知れない。やはり老人の姿が多い。私でさえ辛かったのに彼らにとってはどれくらいの負担なのか想像もつかない。それほどまでに価値のある仏歯だと信じたい。

後日、招待僧侶枠で入場した方に話しを聞いてみると、「11:30ごろに手続き開始して、実際には1時過ぎに入場。行列に並んでいた人達に混じって見学した。一般の外国人観光客など見なかった」そうだ。もう外人枠の有無などどうでもよくなってきた。「仏様の歯は丸一日並んで見るもの」そう思い込むことにした。

Copyright (C) 2009 Sekakoh. All Rights Reserved.
inserted by FC2 system